セールスマンはやってきた。
体育教官室で4時間話を聞いた。

60万だぜ、60万。
即決はできない額だ。

セールスマンは必死だ。
彼は4時間話続けた。
僕もいくつか質問したと思うが
ほとんど彼が話していた。

4時間後、額の汗をそっとぬぐいながら
僕はついにハンコを押した。
冬のボーナス一括払い。

決め手になったのは何か?

2つある。

ひとつは
「セールスマンの真摯な態度。」

スーツも髪の毛もビシッと決めて
それは僕が成功するまでおつきあいする、
という一点の曇りもない姿勢だった。
「この教材をすれば彼のようになれるのかな?」
と思った。

彼はその後、販売成績が上がらず
その会社を辞める事になったが
今でも年賀状の交換をする仲だ。

さて話を元に戻して、

決め手のもうひとつは

「騙されてもいい。しかしもし本物だったら儲け物」

という僕の考え方だった。

実はその頃、仕事が上手くいってなかった。
特に学級運営が大変で
生徒たちとの人間関係、つまり指導力のなさに
悩みながらの毎日だった。

藁をも掴む気持ちで、、、というのは大げさだが
僕は宇宙全体を貫く、決して動かない法則や考え方のようなものを
手に入れたかったのだ。

なんと30歳の誕生日の日に
その成功哲学教材は我が家にやってきた。

運命めいたものを感じたのは言うまでもない。

やり方はシンプル。

テープを聞いて
テキストを読む。

これを毎日繰り返すだけで
成功者の心構えが潜在意識にインプットされ
あなたは成功する!というのが成功へのプロセスだ。

ところが、、ところがだ。。。。

テープを聞く事がなかなかできない。
仕事が終わって疲れて帰って来て
テープを聞きながら寝てしまうのだ。

結局、トータルでテープを聞いたのは
たぶん10時間もないと思う。。

実際、僕のいた学校の他の教師も
その成功哲学教材をつきあいで購入している人が
けっこういた。
が、買ってそのまま押し入れに、
というパターンばかり。

しかし
僕に教材を売ったセールスマンが
そんな僕を助けてくれたのだ。

その成功哲学の教材販売会社では
①とにかく教材を売りまくれ! 
という派閥と
②売った後のフォローこそが大事だ!
という派閥に
別れていた。

僕に教材を売ったセールスマンは後者。
その会社で意見して
フォローアップのセミナーを創ってくれたのだ。

月に2回、平日の夜の2時間のセミナー
セミナー料金は1回格安の2000円だ。
そこの会社の社長が教材を使って
テキストの内容をほぐしていく、というセミナー内容だ。
そしてこの社長の話がめっちゃ面白くて
半分漫談と言ってもよかった。
そしてとっても「熱い」人だったので
話を聞くだけでもの凄く元気をもらった。

仕事で疲れた後にそのセミナーに行っても
セミナーでめちゃくちゃ元気になって家に帰れる、という
感じだった。

僕は自宅でテープを聞く事は全くなかったが
3年ほどこのセミナーに休む事なく通い続けた。

腹の底からゲラゲラ笑い、
ピンときたこと、気がついたこと、大事だと思う事など
高価なテキストにボールペンでどんどん書き込んで行ったのだ。
3年のうちにテキストの内容を3~4周し、だけど一回一回に
新しい気づきがあり、僕のテキストは書き込みで真っ黒になっていった。

このラクチンで楽しいやり方が僕に合った。

しかしこの教材の「真骨頂」が僕に訪れたのは
教材を買って2~3年目に受けた
特別セミナー(2時間2000円)だった。

そのセミナーを終えたとき、
今まであると知らなかった、今まで全く見えなかった超巨大な石でできた車輪が
ゴゴゴゴゴゴと音を立ててゆっくり動き出すシーンが頭の中で見えてしまったのだ。

それこそ僕の「潜在能力」に火がついた瞬間だった。

3話につづく